グロースハッカー目指してみる

過去の経歴を捨て、グロースハッカーを志す事にしたアラサー男子。果たして明日はあるのか!?

刺身の上にタンポポを乗せる作業で振り返る「ザ・ゴール」

こんばんは。 今回は、経営大学院の先生から(随分前に)教えて頂いたこちらの本を(正月休みに)読んだので、 (すごい間が空いていますが)まとめも兼ねてその紹介をさせていただきます。 ……無駄に行間の多い文章だこと。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

概要

本書は、赤字続きで3カ月後には工場閉鎖というところまで追いつめた主人公アレックス(工場長)が、元々物理学教授で現在はTOC (theory of constraints) の研究をしている教授ジョナと再会し、ジョナ助言にしたがって工場を立て直して行く物語です。 小説という体をとっていることで興味を持って読みやすく、アレックスと共にTOCの考え方を段階的に身につけていくことができる構成になっています。

TOCとは

TOC=制約条件の理論とは、複数の様々な制約(できないこと)がある環境において、それらを調整し、最大の「ゴール」を得る為の理論です。 ここでいうゴールとは「目的」のことであり、営利目的の活動であれば利益のことであり、利益を上げることが使命になります。

しかし、ただ漠然と利益をあげろと言われても、何をどう考えたらよいのかわかりません。 そこで利益を要素分解します。

例えば、私の勤めている様なオンライン(もしくはモバイル、ソーシャル)ゲーム業界では

利益 = ユーザ数 × ARPU - 運営費用 - 会社固定費

と利益を1段階分解する事で、状態を把握し、何が利益を圧縮しているのかを考えやすくします。 実際には、このレベルでもまだまだ荒く分からない事が多いので、もっと多くの要素に分解していきます。

それと同様、TOCでは

利益 = スループット - 在庫 - 業務費用

と考えます。 スループットの定義は「販売によって作り出すお金」(ざっくり言って、売り上げ) 在庫の定義は「販売しようとする物を購入するために投資したお金」(ざっくり言って、材料費) 業務費用の定義は「在庫をスループットに変えるために費やすお金」(ざっくり言って、加工・販管費) となっています。

別にこんなものはどうとでも定義できる。数式遊びだ、という向きもあるかもしれませんが、そういう訳でもありません。 指標には力があります。 正しい指標を選べば物事は正しい方へ、誤った指標を選べば物事は誤った方へ、流れていってしまいます。

TOCでは「スループット」「在庫」「業務費用」という三つの指標に注力することで、自然と制約条件下での最適解が見つけられる様になっているのです。

ボトルネック

TOCの肝になる考え方に「ボトルネック」があります。 ボトルネックとは、ある製品の製造プロセスにおいて、もっとも多くの時間を必要とする工程の事です。

突然んですが、刺身の上にタンポポを乗せる作業を考えてみましょう。(!?) 作業現場では、トレー、バラン、刺身、タンポポが流れてきて、順番に乗せるものとします。 バランを乗せるのに1秒、刺身を載せるのに3秒、タンポポで2秒かかるとすれば、 一人で一連の作業をやった場合、6秒程度で終了します。 三人で並行してやった場合、平均して2秒で一皿完成します。

しかし仮に、バランを載せる作業、刺身を載せる作業、そしてタンポポを載せる作業、 それぞれを別の人が担当したらどうなるでしょうか。 なぜそんな事をと思うかもしれませんが、工場での大量生産は、本質的にはそういう事をしています。 (もちろん、それが必要だからです)

さて、バランを載せる人をバランさん、刺身を載せる人を刺身さん、タンポポを載せる人をタンポポさんとした時、 三人がそれぞれ自分の工程を担当した時、生産スピードはどうなるかといえば…… ご想像通り3秒で一皿が限界になります。 バランさんが3秒に一回、1秒だけ仕事をし、 タンポポさんが3秒に一回、2秒だけ仕事をしている間で、 刺身さんは休むことなく刺身を乗せ続けている状態です。

この時の、刺身を乗せる作業こそが、この生産工程におけるボトルネックであり、 "制約条件の理論"における「制約」その人なのです。

ボトルネックスループット会計

もう少し思考実験を続けましょう。

この日、サシミニタンポポノセール工場の朝礼で次の様なやりとりがあったとします。 上司「本日、皆さん一人一人と面談をしますので、バランさんは10:00、刺身さんは11:00、タンポポさんは13:00に、私のところまで来てください」

バランさんの視点

この日、バランさんは10:00から60分ほど、作業ができません。 自分が作業できないと、刺身さんやタンポポさんが困ってしまいます。 そこでバランさんは、刺身さんが60分作業するために必要な量を、先に作っておくことにします。 バランさんは普段3秒に1個のペースで生産を行っていましたが、実際には1つ作るのに1秒しか掛かりません。 そこで本気を出し、残りの2秒を使って、余分に作ることにしました。 刺身さんが60分間で必要とするのは1200皿。 バランさんはそれを普段の生産の片手間で、30分で作り、面談に行きました。 面談から返ってくると、予定通り余分に作った皿が消化された所で、 そこからはまた3秒に1回のペースで作り続けました。

刺身さんの視点

この日、刺身さんは11:00から60分ほど、作業ができません。 自分が作業できないと、タンポポさんが困ってしまいます。 が、しかし。それはわかっているものの、元々刺身さんは休む間もなく働いています。 0900からバランさんの全身が赤く光り出し、作業ペースが普段の3倍になり、自分の前に仕掛品が大量に積まれましたが、自分のペースはこれで限界です。 たまった仕掛品をなんとかこうとか仕上げた頃には、面談の時間になってしまいました。 面談から返ってくると、バランさんは「刺身がいないのにバランを乗せても仕方ないだろう」と作業を止めており、 タンポポさんは「やることがないお」と作業を止めていました。

タンポポさんの視点

この日、タンポポさんは13:00から60分ほど、作業ができません。 しかし、自分は最終工程なので、後から頑張ればなんとかなるだろう、と特に何もしませんでした。 そうこうするうち、11:00から刺身さんが席を外した事で仕掛品の供給が止まり、仕事がなくなります。 その後お昼休憩を挟んで1300から60分面談をし、返ってくると1200皿が溜まっていました。 仕方ないので、タンポポさんも本気を出します。 普段3秒のうち2秒を使って1皿仕上げている所を、残り1秒もタンポポを載せる作業に使うことにしました。 結果、普段の1.5倍のペース、3秒に1.5皿を消費し続け、2時間後には1200皿の仕掛品も消えました。

この時何が起きていたのか?

この時何が起きていたのか、振り返ってみましょう。 まずバランさんですが、事情により作業が止まることがわかっていため、ペースアップすることでそれに対応しました。 一方タンポポさんは、作業が止まっている間にたまった仕事を、ペースアップすることで処理できました。 しかし、刺身さんはどうでしょうか。 刺身さんは普段から余力がなく、常に全力です。そのため、他の二人の様に休んだ時間分の生産を取り戻すことができませんでした。 それどころか、休んだ時間分、まるまるバランさんとタンポポさんの仕事も休ませてしまいました。

これが、ボトルネックの恐ろしい所です。

スループットの最大化=ボトルネックを休ませない事

工場で生産工程を組んで仕事をしていると、必ずボトルネックができます。 そして、ボトルネック以外の作業ではその生産ペースを上げ下げ調整する事で、不意の事態にも対応可能になります。 しかしボトルネック工程はそうした対処ができないからこそのボトルネック工程であり、ここが止まる事は作業を一つ止めただけでなく、生産プロセス全体を止める結果になるのです。 逆に、生産プロセス全体は、ボトルネックのスピード以上で生産する事はできません。

よって、TOCでは「ボトルネックを休ませない事」を重視します。いかなる理由があっても、ボトルネックを無駄使いしません。 また、もしもボトルネックの作業容量を増やせるのであれば、部品個別で見た時に製造コストが上がることになろうとも、外注や旧式機械の使用もするべきと判断します。ボトルネックの負荷を下げることは、工場全体のスループット向上に劇的に効くからです。

刺身の上にタンポポを乗せる作業の場合、もしもう一人を雇うなら、刺身の作業をやってもらいましょう。 その場合、今度はタンポポを乗せる作業がボトルネックになりますが……。

在庫と業務費用の最小化=非ボトルネック業務を適度に休ませる事

一方で、非ボトルネック業務は適度に遊びをもたせておく事が重要です。 局所的に見れば、遊びをもたせる=非作業時間が増える=時間あたりの生産コスト効率が下がる、と言えますが、実際にはこんな事を考える必要はありません。 なぜなら、スループットを決めているのはボトルネック作業であり、非ボトルネック作業をぎゅうぎゅうに詰め込んだ所で、まったく意味のない作業か、保管スペースを必要とする仕掛品の山ができあがるだけだからです。

刺身の上にタンポポを乗せる例ではバランさんとタンポポさんは実は普段手を抜いていましたが、有事にはその余力があるからこそ対処できたし、普段は本気を出しても仕掛品の山を気づくだけなのです。

まとめ

ということで前回の記事に引き続き、自分では(まだ)実践していない机上の空論シリーズをお届け致しました。

ザ・ゴールでは生産管理に対してTOCを適用する例を示していますが、実際にはTOCはより上位の概念であり、何段階かのプロセスを経て成果物ができあがる、どんな場面にも適用可能なはずです。 見るべき所が多すぎて、何から改善すれば良いのか分からない。そんな時にはまず刺身さんーーボトルネックがどこなのかを炙りだしてみましょう。